標準的な写像の例
今回はいくつかの標準的な写像について例を挙げていきます。いずれもよく用いられるものです。
◆Def.SetTop.3.4.3. (恒等写像)(再掲)
を集合とする。
で定義される写像を
の恒等写像といい、
や
などと表す。
Rem.1. のグラフは
であり、対角線集合となります。恒等写像は明らかに全単射です。
◆Def.SetTop.3.6.1.(空写像)
空集合 から集合
への写像はただ一つ存在し、
である。これを空写像という。
Rem.2. 空写像は一般の集合を取り扱うときに特異な例として現れることがあり(この後にやる定値写像などがよい例)、時たま悩ましい存在だったりします。ちなみに、空集合から空集合への空写像は存在します(空集合から空集合への恒等写像になります)が、空集合でない集合から空集合への写像は存在しません。空写像は単射になります。
◆Def.SetTop.3.6.2.(定値写像)
が定値写像であるとは、任意の
について
が成り立つことを言う。
Rem.3. が空集合のときが問題になります。この定義では空写像を定値写像と考えていますが、流儀によっては特定の値
を持つ場合のみを定値写像として定義し、
が空集合のときは除外するものもあります。
◆Def.SetTop.3.6.3. (包含写像)
のとき、包含写像
が
で定義される。
Rem.4. 恒等写像との違いは、 が
自身とは限らない部分集合ということです。恒等写像は包含写像の特別な場合だと考えることもできます。包含写像は単射になります。
◆Def.SetTop.3.2.5. (制限)(一部再掲)
を写像とし、
とする。
写像 を
で定め、
の
への制限という。
Rem.5. 実は制限は包含写像によって分解することができて、 を包含写像とすれば、
となります。
◆Def.SetTop.3.6.4. (特性関数)
のとき、特性関数
を
で定義する。
Rem.6. 特性関数 は部分集合
に属するか属しないかというだけで値が
か
で分かれているので、部分集合
の情報を完全に持っています。なので、
を
と同一視することができます。
べき集合としての と関数の集合としての
が同一視できるという話を以前しましたが、それはつまりこの同一視に他なりません。写像の言葉で言い替えれば、
写像 が全単射であるということになります。
実際、逆写像が構成できて、それは
として定義できます。言葉で説明すると、 とは写像
があったとき、
になるような集合を定める写像です。
実際にこれが逆写像になっていることを示しましょう。すなわち、 かつ
を示します。
とすると、
ですから、 です。
とすると、
ここで、 の定義より、
のとき
、
のとき
ですから、写像の相等の定義より、
したがって、 ですから、
が成り立ちます。
◆Def.SetTop.3.6.5. (値写像)
に対して、値写像
が定義される。
すなわち、値写像とは に対して、その一点
での値を与える写像である。
◆Def.SetTop.3.6.6. (引き戻しと押し出し)
を写像とする。
に対して、合成
を考えると、これは
から
への写像を
から
へのの写像に引き戻したと考えられる。これを
による引き戻しといい、
写像 が定まる。
また、 に対して、合成
を考えると、これは
から
への写像を
から
への写像に押し出したと考えられる。これを
による押し出しといい、
写像 が定まる。
◆Def.SetTop.3.6.7. (射影)
を集合族とする。このとき、積集合
の元
に対して、その
成分
を対応させる写像
が定まる。これを から
への(標準的)射影という。
Rem.7. いわゆる 平面
のときのことを考えるとわかりやすいかと思います。
を第1射影(俗に
軸への射影)といい、
を第2射影(俗に
軸への射影)というのでした。
射影はこれを一般化したものに過ぎません。
◆Def.SetTop.3.6.8. (入射)
を集合族とする。このとき、各
の元
に対して、直和
の元
を対応させる写像
が定まる。これを から
への(標準的)入射という。
◆Def.SetTop.3.6.9. (商写像)
を集合とし、
を
上の同値関係とする。
に対して、商集合
における
の同値類
を対応させる写像
を商写像もしくは商集合への(標準的)射影という。
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