大学数学

写像.4 逆写像

逆写像

f \colon X \rightarrow Y が全単射であるとき、Prop.SetTop.3.2.2.より、任意の y \in Y に対してただ一つの元 x \in X が存在し、y=f(x) と書けます。

言い替えれば、y=f(x) となるようなただ一つの x を(y に依存するため) x_y と表すと、一点 \{y\}f による逆像 f^{-1}( \{y\} )

 f^{-1}( \{y\} ) = \{ x_y \}

ただ一点からなる集合であるということです。

ということは、f が全単射であるとき、各 y \in Y に対して y=f(x) となるような(y に依存する)ただ一つの x_y をそれぞれ対応させる写像を考えることができます。

このようにして定義した写像を f逆写像といい、f^{-1} で表します。

改めて述べ直しましょう。


◆Def.SetTop.3.4.1.

f \colon X \rightarrow Y を全単射とする。各 y \in Y に対して y=f(x) となるような(y に依存する)ただ一つの x_y を対応させる写像 f^{-1} \colon Y \rightarrow X

f^{-1}(y)= x_y  ただし、x_y \in X f(x_y) =y を満たすただ一つの元とする

を定めることができ、f の逆写像という。



Rem.1. f^{-1} というのは逆像の記号と同じですが、f 全単射のときに限り逆写像の記号としても用いられます。f^{-1} を逆像として使っているのか逆写像として使っているのかは文脈によって異なるため、注意が必要です。


(当たり前のようですが)次が成り立ちます。


◆Prop.SetTop.3.4.2.

f \colon X \rightarrow Y を全単射とすると、f の逆写像 f^{-1} \colon Y \rightarrow X は全単射である。


■Prf.

f^{-1} が全射であることを示す。

任意の x \in X に対して f^{-1}(y) = x となるような y \in Y の存在を示せばよい。

ここで、f^{-1}(f(x)) を考える。すると、f^{-1} の定義から、

f^{-1}(f(x))=x_{f(x)} ただし、x_{f(x)} \in X f(x_{f(x)} ) =f(x) を満たすただ一つの元である

となる。

特に f(x_{f(x)} ) =f(x) であることと、f の単射性により x_{f(x)} =x が成り立つから、f^{-1}(f(x))=x_{f(x)}=x

したがって、任意の x \in X に対して f^{-1}(f(x))=x となる f(x) \in Y が存在するから、f^{-1} は全射である。

 f^{-1} が単射であることを示す。

f^{-1}(y')= f^{-1}(y) のとき、y'=y を示せばよい。

ここで、f( f^{-1}(y)) を考える。まずは、f^{-1} の定義から、

f^{-1}(y)= x_y  ただし、x_y \in X f(x_y) =y を満たすただ一つの元である

となる。よって、

f( f^{-1}(y)) =f(x_y)=y

である。ゆえに、f^{-1}(y')= f^{-1}(y) ならば、両辺を f で送ることにより、

y'=f( f^{-1}(y'))=f( f^{-1}(y)) =y

であるから、単射性が示された。

以上より、f^{-1} は全射かつ単射であるから、全単射である。 □


逆写像による全単射の特徴付け

さて、◆Prop.SetTop.3.4.2.の証明をもう少し吟味してみましょう。証明中で鍵となるのは、次の事実です。

x \in X について、f^{-1}(f(x))=x
y \in Y について、f(f^{-1}(y))=y

これを写像の合成を使って言い替えるために、恒等写像という概念を定義します。


◆Def.SetTop.3.4.3.

X を集合とする。f \colon X \rightarrow X,f(x)=x であるような写像を X の恒等写像といい、\mathrm{id}_X1_X などと表す。


すなわち恒等写像とは名前の通り、常に行き先が自身と等しい写像のことです。

これを使い、上の事実を言い替えると、

x \in X について、(f^{-1} \circ f)(x)= \mathrm{id}_X (x)
y \in Y について、(f \circ f^{-1})(y)= \mathrm{id}_Y (y)

となります。すなわち、次が成り立ちます。


◆Prop.SetTop.3.4.4.

f \colon X \rightarrow Y を全単射とすると、 f^{-1} \circ f = \mathrm{id}_X かつ  f \circ f^{-1} = \mathrm{id}_Y が成り立つ。


実は、◆Prop.SetTop.3.4.4.の性質は極めて本質的なもので、全単射というものを特徴付けています。

すなわち、逆のことが言えて、◆Prop.SetTop.3.4.4.のような性質が成り立つこと(逆写像が存在すること)と、f が全単射であることは同値になります。


◆Prop.SetTop.3.4.5.

f \colon X \rightarrow Y を写像とする。g \circ f = \mathrm{id}_X かつ  f \circ g = \mathrm{id}_Y を満たすような写像 g \colon Y \rightarrow X が存在するならば、f は全単射であり、かつ g = f^{-1} が成り立つ。


■Prf.

g \circ f = \mathrm{id}_X から f の単射性を示す。

f(x')=f(x) のとき、両辺に左から g を合成することによって、

x'= \mathrm{id}_X(x')=(g \circ f)(x')=(g \circ f)(x)=\mathrm{id}_X(x)=x

が成り立つので、f は単射である。

 f \circ g = \mathrm{id}_Y から f の全射性を示す。

任意の y \in Y に対して、

f(g(y)) = (f \circ g)(y)=\mathrm{id}_Y(y)=y

より f(g(y))=y を満たす g(y) \in X が存在するから、f は全射である。

したがって、f は全単射。

次に、g = f^{-1} を示す。

まず、 \mathrm{id}_X \circ f^{-1} = f^{-1}g \circ \mathrm{id}_Y= g が成り立つことに注意して(ほとんど明らかなのでこのことの証明は省略)、さらに◆Prop.SetTop.3.4.4.および写像の結合法則を用いると

g= g \circ \mathrm{id}_Y= g \circ (f \circ f^{-1})=(g \circ f) \circ f^{-1} = \mathrm{id}_X \circ f^{-1} = f^{-1}

である。 □



Rem.2. ◆Prop.SetTop.3.4.5.により、f \colon X \rightarrow Y全単射であることと逆写像が存在することが同値であることが言え、さらに逆写像とは g \circ f = \mathrm{id}_X かつ  f \circ g = \mathrm{id}_Y満たすようなものとしてただ一つに定まるということがわかりました。

ということは、実は全単射とは全射かつ単射であることという定義をすっぱり忘れて、◆Prop.SetTop.3.4.5.(逆写像が存在すること)の性質を全単射の定義としてしまってもよいことになります。

こちらを定義とした場合、示すべきは◆Prop.SetTop.3.2.2.の性質(全射かつ単射であるということ)になりますが、これこそ◆Prop.SetTop.3.4.5.の証明そのものであり、実際に示すことができます。

◆Prop.SetTop.3.2.2.の性質が集合と元の言葉で記述されている(集合論的である)のに対して、◆Prop.SetTop.3.4.5.を定義として見た場合は、元のことには一切触れられずに、写像(射)の性質のみを用いて全単射であることが定義されます。この視点は対象から対象への射を主役とする圏論的なものの見方の典型的な一例になっています。


 

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