多様体
現代幾何学の中心的な対象である多様体について学びます。
高校までや大学1、2年生では、平面、空間、より一般の 次元空間を扱ってきたかと思います。
そこまでの数学で扱っていた「まっすぐな空間」のことを、ユークリッド空間と言います。
一方で、例えば地球の表面のような「曲がった空間」において幾何学を考えたいという動機があります。地球の表面は球状に歪んでいるため、2つの平行線は極で交わりますし、三角形の内角の和も180°より大きくなります。
簡単のために地球を理想的な球体と考えると、球面上ではどのような幾何学が展開できるでしょうか?
多様体とは、このような「曲がった空間」を規定する概念です。多様体上の幾何学は「曲がった空間」の幾何学とも言われます。
局所的に 次元ユークリッド空間と同相(位相的に同じ構造であること)であるような図形のことを、
次元多様体と言います。
グローバルに見れば曲がっていても、ローカルな視点に立つとほぼまっすぐな空間であるということが重要です。
例えば、球面はグローバルに見れば球状に曲がっていますが、球体上の一点から見ると近い範囲ではまっすぐな2次元に見えます(ここでは表面について考えているので、高さのことは無視して考えています)。したがって、球面は 次元多様体です。
多様体の良いところは、局所的にはユークリッド空間と「同じようなもの」と見なせるので、微分積分や線形代数、より高度な道具立てを駆使して解析することができるということです。
そして、多様体のどの性質に注目するのか(距離を考えたいのか、大きさを考えたいのか、形を考えたいのかなど)で、様々な研究分野に分かれていくことになります。
トポロジー
多様体上の幾何学が「曲がった空間」の幾何学と言われるなら、トポロジーは「やわらかい幾何学」と言われます。
トポロジーでは、図形の大きさや角度と言った概念は一切気にしません。トポロジーにおいて関心があるのは、「連続的に変形したときに2つの図形が一致するかどうか(同相であるかどうか)」です。
「連続的に変形する」という概念は位相を使えば厳密に定義することができますが、ここでは「自由に伸び縮みさせても良いが、千切ったり破いたりしてはならない」くらいに考えておきましょう。
例えば、正方形は角を丸めて連続的に変形することで円に変形できます。したがってトポロジーにおいては、正方形と円は「同じもの」と考えます。
一方で、球体とドーナツを考えてみましょう。球体をどうこねくり回しても、千切ったり破いたりしない限りはドーナツのような穴を開けることはできません。したがってトポロジーでは、球体とドーナツは「同じものではない」のです。
さて、一般に「2つの図形が互いに連続変形で移り変わるかどうか」という問題は非常に難しい問題です。
なぜなら、連続的に変形するやり方はそれこそ無数にあるからです。あらゆる変形のやり方でもっても互いに移り変わらないということを直接示すことは不可能でしょう。
そこでトポロジーでは、「2つの図形が互いに連続変形で移り変わるかどうか(同相かどうか)」という非常に難しい幾何学的な問題を、より簡単な代数的な問題に置きかえて考える手法を用います。
図形に対して、ホモロジー群と呼ばれる代数的な対象を構成することができます。
ここでもし、2つの図形が同相であれば、2つの図形が作るホモロジー群が同じ構造を持つ(同型である)ことが言えます。(逆は必ずしも成り立ちません)
したがって対偶を取ると、2つの図形のホモロジー群を計算して違うことがわかれば、2つの図形は互いに連続変形によって移り変わらない(同相でない)ことが証明できるのです。
ホモロジー群の他にもホモトピー群など、図形から様々な代数的対象が構成できます。また、解析的な手法を持ち込んで同相かどうかを調べることもできます。
このように、「同相であるか」という難しい問題を違う分野の手法を用いてより簡単な問題に置き換えて研究する分野がトポロジーです。
微分幾何
微分幾何とは、多様体を解析的手法を用いて調べる分野です。
多様体の中でも可微分多様体( 級多様体)、特に滑らかな多様体(
級多様体)の解析が主役になってきます。
例えば、可微分多様体の各点に計量テンソルというものが定義されている多様体をリーマン多様体と言います。リーマン多様体上では角度や曲線の長さなどを定義することができます。
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